『Dress Farm #3』のこと

sumikaのDress Farm #3というCDのジャケットをつくりました。
収録曲は『春風』という曲。
価格設定が自由とか、3年前の取り組みの続編であることとか、そういうたくさんの「余計な先入観をつくりたくない理由」があったのだけれど、発売から一月以上経った今、なにか少しくらい話せることがあるような気がしている。

制作の依頼をしに、片岡くんが僕のアトリエまでやってきた。僕のアトリエは神奈川県のほぼ西端、小田原市というところにあるので、来るだけでもそれなりに手間がかかる。電話で済むことは電話で済ませればいいし、メールで済むことはメールでいいと思っているけれど、わざわざ会いに来てくれるのは嬉しい、表情や体型からわかることは電話やメールの比ではないし、無駄な話もできる。いろいろなことを話した。

Dress Farmというのはこういうものhttp://sumika.info/special/dressfarm.html)。
sumikaはいつも面倒そうなことをやっている。
社会の仕組みはいつもすごく面倒だから、まっすぐなことをまっすぐやろうとすると、いろいろなことが面倒な方法にならざるをえないのかもしれない。
sumikaの面倒さは、聴く人や観る人に届くまでのフィルターを、できる限り減らすための作業なのだと思う。わざわざ都心から離れた僕のアトリエまで来てくれたみたいに。

昨年末に「芸術宣言」(http://naoyaohkawa.com/declaration/index.html)という表明をして前回のDress Farmから状況が変わっていたので、僕も色々と面倒なことを言った。こうやってつくりたいとか、こういうものをつくりたいとか。そしてその面倒も当然のように受け入れてくれて制作がはじまった。『春風』を聴いて、Dress Farm #1と#2のジャケットから繋がっていて、それでいて決して完結しないジャケットをつくりたかった。つくれる、と確信して以来を引き受けた。
制作はいつも通り、スタッフの皆さんやメンバーとああだこうだ、本当にたくさんのああだこうだを言いながら進んだ。sumikaの4人は、打ち合わせにも撮影にも全員で出張ってくるような人たちだ。きっといつもこういう風に丁寧にものをつくっている。

Dress Farm #1は一組の男女、#2はじいさんばあさんと小さな子ども。#3のコックさんは誰なのか、なんで蝶ネクタイをしているのか、くるりんっと円を描くリボンや右側に封らしきものがしてある理由、盤面や歌詞カードのデザインの意図は、それぞれが考えてくれればそれでいい、きっとそれが正しい。

Dress Farmで一番重要なのは「価値をわかってくれ」でもなく「価値を知ってほしい」でもなく、「価値を決めてください」とsumikaが言っていることだと思う。
ものの価値というのは、複雑な経緯をたどって、数多くの物事の均衡をギリギリで保ちながら決まっているものだけれど、つくった人たちや売る人たちが「決めてください」と言っているのだから1円で買おうと1,000,000円で買おうとすべて正解だ。不正解はないのだから、難しく考えずに、ちょっとだけ考えてみるといいことがあるかもしれない。

勉強の合間にしたバイト一時間ぶんの900円で買うのも、ベンツを買ってドライブのおともに1円で買うのも、お母ちゃんからもらったお小遣いの10,000円で買うのも、全部が物語になる。

お気に入りの蝶ネクタイをした、少し風変わりなコックさんからの便りは、春風にのって誰のところへ。
春が過ぎてしまっても、また来年も、その次も、物語が続きますように。

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