『芸術宣言』

先ほど、グラフィックデザイナーとしての仕事をすべて終えました。
21歳でARTELIAを掲げ7年が経ち、今日をもってARTELIAを凍結し、グラフィックデザイナーとしての活動を終えます。

ものを語るよりまず言わなければいけないのは、仕事を与えてくれた方、失敗を笑ってくれた方、労力をもって怒鳴りつけてくれた方、打ち合わせと称して美味しいものをご馳走してくれた方、幾度となくともに夜を徹した方、多大な協力を注いでくれた方、仕事の完了を歓び合ってくれた方への感謝です。経験はどれも忘れがたく、楽しいことはあまりに多く、わるい人は誰一人いませんでした。こんな幸運はありません。本当にありがとうございました。

僕は芸術をやることにしました。

解離のようなものを感じはじめたのは、24歳の終わり頃だったと記憶しています。
ふたつの枠の中でもがいていました。
グラフィックデザインは、決められた枠のなかで商業的な数多くの要求に応えながら、糸口を見つけ、問題点を解決または克服する仕事です。尊敬するグラフィックデザインの達人や同世代たちは、本当は枠なんてないのではないだろうかと思うほどに自由に枠の中をいろどり、ときに枠をつくり変えます。グラフィックデザインの形を保ったまま枠の外に出ていける人もいます。それでも僕は、この枠のないところでものをつくりたくなってしまった。
独立してすぐ、俺は俺だからと振る舞う不遜は全て捨てようと、誰よりも真面目で礼儀正しくいようと決めました。右も左もわからないまま独立して、知識と経験も浅く、経歴もアカデミズムによる後ろ盾もない若造が、大きいビルの隙間を一人で歩くにはそれしかありませんでした。グラフィックデザイナーとしての枠の中できちんとしていなければいけない、一歩でも枠をはみ出せば路頭に迷うと思い込んでいました。そうしているうちに、必要以上に狭く、窮屈にしてしまった枠がどうしても邪魔になりました。
日本におけるデザインには、応用美術という和訳もあり、デザインと芸術の境界は曖昧に思えます。まして僕は写真も映像も、必要とあればあれもこれもつくります。しかし、僕の中でデザインと芸術の隔たりは日に日に大きくなっていきました。
そして僕がやりたいのは、芸術だと思い知りました。
仕事で手を抜いたことは一度もないと断言しますが、この解離を抱えたままグラフィックデザイナーとして仕事をしていくことはもうできません。

グラフィックデザインと、芸術のどちらが偉い、尊い、すごいと言う話ではなく、ただ単純に僕は芸術をやりたい。自分なりの納得をしたい。つくりたいもの、つくるべきものをつくりたい。

芸術宣言と銘打ったものの、僕は芸術家になりたいわけではなく、クリエイターにも、ビジネスマンにも、いい感じの人なんてものにもなりたいわけでもない。
もう、なににもなりたくない。
働くことは心から楽しい。
自分の足で、地面を掴んで立っていたい。
どこまでも自由でいたい。
あるがままにいたい。
僕は、自分が認識している何倍も、わがままで、自分本意で勝手な人間だった。

僕はこれから音楽と映像と写真とグラフィックと文章をつくる。そのほかでも、つくりたくなれば、なんでもつくる。もし、志や納得が同じところへ向かう誰かがいるなら、なにかを一緒につくることもあるかもしれない。それがデザインならクライアントワークと呼ばれるのかもしれないけれど、デザインをするのはもう今までのグラフィックデザイナーである僕ではない。
今回の決断と、今後の創作活動がどういう価値を得るかもわからない。最低限の家と少しの食べ物があって、自分が納得する作品をつくることさえすれば、お金なんていらないし、本もレコードも洋服もいらないなんて全く思えない。生活していかないといけない、稼ぎと糧にする方法も考えなくてはいけない。
発表の場所なんて当然ない。わかってくれる人だけ、見つけてくれる人だけわかってくれればいいなんて諦められるほど人間ができていない。作品を見せる場所も機会もつくって、騒ぎまわらないといけない。
これから向かうところ、先人一人も見当たらず、呼び名さえないように思う。
それでも、だから、僕は、僕のつくりたいもの、つくるべきものをつくる。自分の納得するものをつくる。
なんと呼ばれてももうかまわない。僕は芸術をやる。

2016年の暮れ、大安。強い風の吹く、とても晴れた一日だった。
この声明をもって、芸術宣言とする。
読んでくれてありがとう。

焦燥や初期衝動はずっと向こうに消え去って、あるのは情熱と憧れだけ。
ただただ、震えるような、誰も見たことがないものをつくりたい。
なにができるだろう、どこへいけるだろうか。

さらば、我が青春のARTELIA、いつかまた会おう。
目指すは極致。
ずっと続く旅は、どこへでも、どこまでも。


2016年12月23日
大川直也

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