DRIFTER / OWIZO
NAOYA OHKAWA
DRIFTER / OWIZO
NAOYA OHKAWA
海鳴りに目を覚ました。ベッドと同じ高さにある、梨地のガラス窓の一点に透ける朝日を指でさわる。その港町に滞在して何日か経つ。
明け方、高速道路をくぐり海へ出る。早起きの漁師が港へ帰り、僧侶が階段の下で何かをつぶやいている。砂を踏む足元の音は、左耳のすぐそばで聞こえた。砂浜は風に晒されて波と同じ形をしていて、砂漠の骨のような色の漂白された流木が点在している。桟橋にはクレーンの真下に北欧の言葉の書かれたコンテナが置かれている。港のある町は、汽水域のように、活気と退廃が侵食し合う。
古い木の漁師小屋は所々穴が空いて打ち捨てられているように見えるけれど、頑なに鉄製の錠がかけられている。石が柔らかく砕け、ヒビが入ったお地蔵さんは柔和な表情をしている。高架の鉄柵も、クレーンも剥げた塗装に錆びが浮く。
どこかからやって来た砂の山が影を落としはじめる。空は白んだけれど、まだ月が浮いている。朝の凪に波が止んで、湖のような水面に浮かぶ退屈そうなサーファーたちは水平線の方を向いて、待ちわびている。祈りの姿に似ていた。
港の町、労働と信仰と生活が潮風にさらされて同じにおいになる。
DRIFTER / OWIZO
NAOYA OHKAWA