RAIN & WATER
NAOYA OHKAWA
RAIN & WATER
NAOYA OHKAWA
雨が降り続く。数ヶ月前までの冬枯れは、青みのある緑に変わって露に光っていた。否応もなく季節が変わったことを思う。
冬に見たあの寒々しい枝は、しばらく見ないうちにボサボサと葉をつけたらしい。こちらはというと、暖かいコートと襟巻きを脱ぎ捨て、Tシャツに雨合羽というちぐはぐな格好になった。枯れ木と思っていた木は、すらっと引き締まった幹を見せびらかすようにてっぺんの方に葉が揺れている、ああ、冬を越えた。雨雲と雨と湿気で、とてもいい天気とは言い難いけれど、ずいぶん爽やかな景色のように思えた。
鳥が生暖かい雨に打たれながら、枝を飛び立って、東へ向かった。お腹がいっぱいになったのか、なにかしら用事ができたのか、草むらのカラスにいじわるをされたのかしにいくのか、誰かの待つ家に帰るのか、木の実を運んでいくのか、数羽が連れだって一直線にどこか。空腹に飛んだわけではないことだけはわかった、この時期なら食べるものに困りはしないだろう。セーターのような羽も生えかわり、シュッとした胴体で曇り空を滑る姿は、痛快な思いがした。一点に薄あかり、分厚くふくれた雨雲の向こうには、確かな光源があった。
ススキのようなふさふさは、綿毛を落としてしなやかにしなっている。厚みこそ同じようだけれど、紫陽花の葉とはまた違う立派さの、やわらかな手のひらのような葉に、雨粒が跳ね返り、ゆっくりと草むらの下の土に染み込んでいく。その音さえ聴こえてくるようだった。そこかしこで、着たり脱いだり、葉をつけたり落としたりしている。
野原にあった車輪の轍は、跡形もなく夏草に埋もれ、その夏草も来る季節に向けて短く刈り込まれている。季節を跨いでゆくのは、人も草も大仕事らしい。
気に入った帽子などを買い込み、できる限り陽気で明るい色をした開襟シャツの支度をした。鮮烈な木漏れ日や日差しと、濃く落ちた影、冷たい氷や涼しい風と、肌に貼りつくような湿気、幾つかの音とにおいと色を想像する。
雨がやんで、あと何週もすれば夏がやってくる。
RAIN & WATER
NAOYA OHKAWA