DRIFTER / SIKA
NAOYA OHKAWA
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NAOYA OHKAWA
湖を縁取るように道路、町、水と森。小さな川や用水路が、手加減なく湖にそそぐ。町や山の水を引き受け、またどこかに運んでいくらしい。遠くに対岸を霞ませ細密に波立つ湖面は雄大で立派だった。
水の青と葉の緑が鮮烈だった。むせるような暑さの中、まろやかな風を浴びながらずっと歩く、ひたすら歩く。桜より濃い色をした春の花が咲いている。ざわつく林の桜は、花の時期を過ぎふっくらと葉をたくわえて木漏れ日が綺麗だった。
暑さにうなだれた鯉のぼりは、仕方なさそうに、それでも責任感の強そうな目で高い空を見ている。
あぜ道、じいさんがよそ見をしながら枯れ草をじりじりと燃やしている。煙草の煙と、野焼きの煙が混ざる。端に積まれた枯れ草の山では、飛べなかったタンポポが綿毛をそのままに、土にまみれている。綿毛に火がついて高く舞っていくのを想像する。ずいぶん遠いところの出来事のよう。
等間隔の電柱は、視界の外まで続く川のようにも見えたし、道標のようにも、夜道を照らす街灯のようにも、祈りの対象のようにも見えた。
湖を抜け出した水が、走り行く電流が、土にまみれた靴が、汗を拭う農夫とその稲穂が、煙が、今年の春は飛べずに燃えた綿毛が安全にどこかへ辿り着くための、祈りの見守り役が泥から高く生えているように見えた。
DRIFTER / SIKA
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