雪と氷
NAOYA OHKAWA
雪と氷
NAOYA OHKAWA
雪原の写真が撮りたいとわがままを言い、長野に連れて行ってもらった。
途中のパーキングエリア、あまり知らない寒さだった。刺すような、というけれど、絞られるような、そういう種類の寒さだった。南国に行きたい、これから向かうのは雪国。
諏訪湖が凍っている。ドイツ製の三脚に載せた大きなカメラを氷に向ける人に、冬はいつもこんな感じですかね、と尋ねると、すごく珍しいことですよ、と言う。ビクビクしながら凍った湖の上に立つ。やっぱりこわい。
岸から入ったヒビがせり上がるように、ずっと向こうまで続いている。何かで読んだことがあった。御神渡りという。ふらふらとやって来て、たまたま見られるとはなんと幸運だ。神様が通った跡だと、大変ありがたがられているものらしい。確かに、こういう原理の自然現象なんですよ、と言われるより、神様が通った跡と言われた方が納得がいく。
長い長い、何も無い雪の山道を行った先、いくつかトンネルをくぐると、一件のホテルがあった。入り口では宿泊客を迎える火が燃えている。人を迎える火だといいのだけれど、神様とかなにかを迎えるやつに見える。本当はあの雪道で、どこか違う世界へ迷い込んでしまったのではないかと疑うが、掴んだ雪が死ぬほど冷たかったのでまだ生きているみたいだ、よかった。
あの港町で見た小屋のような店に入る。店主が重い腰を上げてつくったラーメンを食べる。つけ込まれすぎた焼き豚は、塩を食べるよりしょっぱかった。食べてる最中から唇が痛い。浸透圧で、身体の水分がおかしなことになっている。それくらいしょっぱかった。
目をさますと、顔がむくんで縁起の良い神様のような顔になっていた。あのラーメン屋に入ったところから悪い夢かもしくは良い夢を見ていたのでは無いかと疑うが、焼けるほど喉が渇いているので夢ではないみたいだ。大きいコップ一杯に水を貯め、一気に飲んだ。
雪と氷
NAOYA OHKAWA