作品の販売と値段のこと

昨年に続き、今年の個展でも作品の販売をします。

そして、2020年1月18日にWEBショップをオープンします。
このWEBショップでは、まずは写真作品が買えるように。
ゆくゆくは額縁を売ったり、立体物を売ったり、Tシャツを売ってみたり、とにかく思いついたことを可能な限り、手に取ることのできる作品として、誰かの手元にお届けすることを目的としています。

そして本題は作品の値段について。
NAOYA OHKAWA EXHIBITION 2019「HUMAN SHAPED LIGHTS」で販売するのは、A3サイズ(横420mm×縦297mm)の写真プリントです。

4,800円です。昨年と同じ値段で、これに関しては、昨年の個展以来、本当に様々な意見を頂いていて、正直なところ「安すぎる」と言う意見がほとんどです。

販売する写真作品は、量販店の写真プリントや、ネットプリントを使用した、いわゆる一般的な写真プリントとは違い、大量の用紙を試して選んだバライタという写真用紙に、一枚一枚、慎重にスキャンをした上で写真専用のプリンタでプリントをし、印刷枚数を限定し、署名(サイン)とエディションナンバーを直筆で記入した、正真正銘の「オリジナルプリント」と呼ばれる写真作品です。

美術品の市場において、写真作品というものはこの「限定枚数の明記」と「作家本人による直筆の署名」が大きな価値を持っています。
絵画や、彫刻作品などとは違い、写真にはまず原本となる「フィルム(デジタルの場合はオリジナルデータ)」があります。これがある限り、作品は何枚でも複製が可能となり、美術品に限らず、多くのコレクターや購入者が重要視する「レア度」という面での価値や投資価値は高いものにはなり得ません。印刷の品質を除けば、量産される「ポスター」と何ら変わらないものになります。あくまで「美術品としての写真作品」と考えれば。

よって、偉大なる先輩作家達は、枚数を限定し「ナンバリング」と「署名」をすることで、自らの写真作品を「美術品」として価値のあるものにしてきました。

先人達は「付加価値としての値段」を上げることで、自らのバリューも高めていきました。
僕はその真逆で、値段として現れる付加価値を下げたい。
価値を下げたいと言えばおかしな言い方に聞こえるかも知れないけれど、単純に「安く売りたい」わけです。ともすれば安売りとも揶揄されるような値段設定ですが、それでも、できる限り安く売りたい。

長らく「アンドレアス・グルスキー/Rhein Ⅱ」の430万ドル(当時の為替で約4億3000万円)が写真作品としての世界最高額でしたが、2014年に「ピーター・リク/Phantom」に650万ドル(約7億7000万円)の値がつき、最高額を塗り替えました。
日本でも、バンクシーが取り沙汰されたり、バスキアの作品が123億円で落札されたことがニュースになりました。

こういうのを聞いて「うむ、よくわからん」と感想を持つ方も多いかと思います。この辺のカラクリや美術品の市場や、そもそも現代の美術について話すと、あまりにも長くなるので割愛しますが、とても乱暴な言い方をすると、この市場と言うのは「裕福な国の裕福な人」だけにターゲットが絞られています。

先述したように、芸術家たちのほとんどは、様々な付加価値をつけ、自らの作品の価値を上げることに躍起になります。そう言う商売ですから当然です。これに関して、全くの批判もありません。

つまり「美術品の市場」と言うのは「一部のお金持ち」によって成り立っているわけです。
僕は、その市場に全く興味がありません。

それよりも、誰かの家に自分の作品が飾られていること、生活の一部に溶け込んだり、誰かがたまに手元で眺めてなにかしらを思ってくれる方が、どこかのお金持ちに高額で売れて価値が上がるまで倉庫で眠ることより、僕にとって重要なことです。

「美術品を買ったことがある人」というのはとても少ないように思います。「好きなミュージシャンのアルバムを買ったことがある人」に比べたら、その割合はそれはそれは少ないでしょう。美術品としての写真作品の認知度も、一般的に高いとは思えません。
僕がやりたいのは「美術品を買って帰ったことがある人」を増やすことです。
美術品の売買をどこか遠い場所で起こる、縁のない出来事にしておきたくない。僕の作品を欲しいと思った誰かを、芸術の当事者にしたい。
そのためには値段的なハードルを下げることは必須条件と捉えています。

知らない場所で高額で取引されるのではなく、4,800円で、誰かが帰ってくれたらとても嬉しい。音楽や文学がそうであるように、生活に花を添えたり、生活に溶け込んだり、人生というものの場面に小さくも寄り添う選択肢のひとつに、僕のつくったものがなれたら嬉しい。

ポストカードを売れば儲かるとも助言をもらいますが、そこもあまり興味を持てずにいます。美術展や雑貨屋などでポストカードを買うことも大好きですが、ポストカードには少なくとも「葉書」としての機能があります。
そうでなくて純粋に「眺めるくらいしか使い道がないもの」を購入して家に持って帰る体験をしてみてほしい。

なので「誰でも購入を考えることができる」値段として、4,800円と値段をつけました。

買った以上それは、作家の手を離れ、買った人のものになります。壁にかけてみたり、テーブルに置いてみたり、裏返して床に置いてみたり、枕の下に敷いてみるのも、全て自由です。

安売りともとられる値段をつけてでも、選択肢のひとつになれるのであれば、そんなに素晴らしいことはあまりないように思います。
そのうち、大きな作品を高額で販売したりもするでしょうが、4,800円のA3プリントはずっと続けていければと思っています。
この値段が安いか高いかの判断はお任せします。こちらは一切手を抜かず、しっかりとつくった写真プリントを用意してお待ちしております。

僕の作品に、美術品としての付加価値はいりません。
値段以外の価値は、あなたがつけてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です